研究Studies
概要
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ファジィ測度・ファジィ積分
博士論文「Theory of fuzzy integrals and its applications (東京工業大学、1974年)」において、非加法的単調集合関数としてのファジィ測度と、ファジィ測度に関するファジィ積分(現在、菅野積分と呼ばれる)を初めて提案した。ショケ汎関数で用いられる容量は単調集合関数であるため、ショケ汎関数は後にファジィ測度に関する積分として再定義され、従来のルベーグ積分を拡張したショケ積分と呼ばれるようになった。多基準意思決定のための選好理論は非加法測度の最も重要な応用分野の一つであり、基数の場合のショケ積分と序数の場合の菅野積分が標準モデルとみなされている。
今日、研究者の評価を示す指標として用いられるh-index(h指数)には、論文の被引用数を被積分関数としファジィ測度を計数測度とする菅野積分(Sugeno Integral)が用いられている。
ファジィモデリング
博士課程の学生であった高木友博との共同論文「Fuzzy identification of systems and its applications to modeling and control (IEEE Trans. on SMC, 1985)」において、ファジィモデリングと制御のためのいわゆるTS(Takagi-Sugeno)システムを提案した。TSモデルにより、ファジィ制御は現代制御理論に対応できるよう理論的に発展した。その後、「On stability of fuzzy systems expressed by fuzzy rules with singleton consequents (IEEE Trans. on Fuzzy Systems, 1999)」でTSモデルの欠点を克服する新しいモデルを提案し、現在ではPML (Piecewise Multi-Linear) モデルと呼ばれている。例えば自動車の制御では、LUT(ルックアップテーブル)は非線形制御の実装や、機械的非線形性を表現するためのツールとして広く使用されているが、双線形補間法を使用するLUTは、まさにPMLモデルとして表現される。従って、制御理論的にはPMLモデルでLUTを扱うことが可能である。
制御工学やデータ解析の分野で世界的に利用されている数値解析ソフトウェア MATLAB には、ファジィ推論システムの設計ツールとしてTakagi-Sugeno-Kangモデル(Sugeno Fuzzy Inference Systems)が組み込まれている。
ファジィ制御の応用
1983年に日本の富士電機(株)と共同で浄水システムを開発した。これは、1979年にデンマークのF. L. Smith社が開発したセメントキルン・プラントに次いで、世界で2番目のファジィ制御の応用である。その後、1989年には松下住設機器(株)(のちのパナソニック)と共同で家庭用給湯システムを開発し、これは世界初の家電製品へのファジィ制御の応用となった。
また、人間の音声による自然言語コマンドで無線操縦できる模型自動車を試作し、1987年 第2回 IFSA World Congress(東京)において実演に成功した。人が車を運転するときの曖昧さを含む判断をファジィ制御による操縦命令に変換し、「走れ」「止まれ」などの音声指示の入力にはファジィ理論を応用した単語認識装置を利用したもので、ファジィ工学の二重応用という点でも注目された。
1990年代には画像誘導による自動着陸、音声コマンド(「もっと速く」「大きく左へ旋回」など)による三次元自律飛行、GPSを用いた三次元ナビゲーション、画像誘導による移動物体追跡などの機能を備えた、世界最先端の無人ヘリコプターを開発した。後に、このヘリコプターは福島原発事故の放射能測定に使用された。
日常言語コンピューティング
1993年、「Toward Intelligent Computing (5th IFSA World Congress, 1993)」において、社会記号としての言語を通じて人間の知的活動を扱う計算機処理の枠組として「知的ファジィコンピューティング」を提案した。これは数値中心の従来の計算処理から、言語による意味処理を重視する新たなコンピューティングへのパラダイムシフトを目指すものである。構想の実現に向けた要素技術として、1990年代にはファジィ理論と選択体系機能言語理論をベースに、(1)人間の言語による思考モデルとしての「言語モデル」、(2)言語レベルでの推論を用いたマルチモーダルの情報融合の方法、(3)言語の意味処理に用いる大規模データベースとして、人間の活動を記述した「状況データベース」の構築、などを提案した。
2000年~2005年に理化学研究所で実施したプロジェクト「日常言語コンピューティング」において、「ヒトの知能は言語の使用に依存しているということを計算機的に表現する」というコンセプトに基づき、計算機上で自然言語の意味を介在して情報が処理される枠組みを提案した。
要素技術として、選択体系機能言語理論に基づきコンテクスト・意味・語彙文法・表現から成る言語資源のデータベース「セミオティックベース」を構築し、テクスト理解・生成アルゴリズムを開発。また、ユーザーの知識レベルや言語的特徴を考慮した「クライアント秘書」や自然言語を介して通信する「言語プロトコル」、自然言語でアプリケーションを操作できる「言語アプリケーションインターフェース(LAPI)」を実装した。さらに、言語アプリケーションへの利用例として、言語ワープロ、スマートヘルプ、言語プログラミングの各機能のプロトタイプを実装して、テクスト理解・生成アルゴリズムとセミオティックベースを連携させたシステムのデモンストレーションに成功した。
現在、大規模言語モデルを使って同じような試みがなされてきているが、日常言語コンピューティングはそのような枠組みをいち早く提案したものと考えられる。
Gracián Triviñoとの共同論文「Towards linguistic descriptions of phenomena (Int. J. of Approximate Reasoning, 2013)」では、現象について意味のある言語記述を生成する計算システムの開発に向け、知覚の計算理論(CTP)と選択体系機能言語学(SFL)を統合した新しい枠組みを提案した。数値データを「現象の粒状言語モデル(GLMP)」を通じて解釈、意味構造を構築し、さらにコンテクスト・意味構造・語彙文法・表現の4層に基づく言語生成により、意味のあるテキストが得られる。
これは複雑な意味構造と語彙文法構造を持つファジィ言語要約を生成する新たな計算モデルであり、データについて文脈に即した柔軟な言語記述の生成を可能としている。
ショケ微積分学
2010年代には、「A note on derivatives of functions with respect to fuzzy measures (Fuzzy Sets and Systems, 2013)」においてファジィ測度に関する導関数の概念を提案し、ショケ積分の逆演算としての微分を定義した。この新しい概念をもとに、「A Way to Choquet Calculus (IEEE Trans. on Fuzzy Systems, 2015)」でショケ微積分学を提唱した。これは17世紀のニュートンとライプニッツ以来の長い線形微積分学の歴史の中で、非線形微積分学への扉を開くものと期待されている。
その他の研究テーマ
あいまいさの哲学
不確かさの構造
意味的推論
脳の研究

